こんな時期だから

ボクは手。人間の体から切り離された手。今日も今日とて人間の冷たい目に見つめられながら街を歩く。街を歩くとボクは人間の足に踏みつけられる。人間の目と足は手を組んでいるから、目にとってアウトオブ眼中な地面を這いつくばるボクは足に踏みつけられる。足は見えているのにボクを踏む。足に聞くと「目の言ってる事だから」の一点張り。目はボクのことなんか見てくれない。あいつは現実主義なヤツだから、人間の体から離れた手を存在から否定する。存在から消されたボクは、目のマリオネットにすぎない人間自体にも相手にされない。
昔の仲間も、目の一言でコロリと手のひらを返したような態度をとる。口はボクを使っていろいろなことをした。あいつの掃除をしてやったのもボクだ。毎朝、歯磨き粉まみれになりながらアイツの掃除をしてやった。鼻だってそうだ。あいつが息苦しいときに、ボクだけが助けてやった。他のヤツにはできない仕事をしていた。それなのに、今では何事もなかったように生活をしている。目が黒幕となり脳を完全に操っている。手が無い苦労を気づかせようとしていない。完全に存在を消されたボクは人間にとって、タダの邪魔者となった。